前方に先行していた男性の姿が見えていた。かなり前からそれは確認していたのだが、全くそこから動く気配が無い。「何が咲いているのかなぁ」そう言いながらも足元に咲くアポイアズマギクを撮っていた。「わぁ、凄いわよ~」おばさんの歓声が聞こえた。私はあわてて立ち上がりおばさんの後を追った。 「こりゃあ、凄い!」私は思わず息を飲んだ。周辺の岩肌を埋め尽くすかのようにサマニユキワリが咲き乱れていたのだ。「こりゃあ、圧巻だね」「綺麗だわ~」私達はそうつぶやきながら立ち尽くしていた。「ここはいつも綺麗に咲くところですよね」先行して写真を撮っていた男性の言葉に我に返って頷く。私はおもむろにカメラを構えて~サマニユキワリのひとつひとつの花ではなくて~広角気味に狙ってみる。ファインダーを覗くとその美しさは一層際立って見えた。 近くの岩の割れ目に沿って咲くヒダカイワザクラ、渓流沿いに咲くそれよりは花が小さくて、どちらかと言うと可愛い印象である。これも今回の山行で楽しみにしていた花の一つであった。「これなんかも可愛いよ~、 あっ、こっちも綺麗!」いよいよ私達は先に進まなくなって来た。 追い打ちをかけるかのように~エゾキスミレの登場である。おばさんの大好きな黄色いスミレである。厚く光沢のある葉と、円みのある濃い黄色の花弁がとても可愛い。花はちょうど見頃を迎えていて、登山道脇の岩場や遠くの岩陰にその姿を見ることが出来た。おばさんが遠くの岩陰に咲くエゾキスミレの群落を狙う。私はしゃがみ込んで足元に咲く花にカメラを向ける。 |
岩肌を埋め尽くすサマニユキワリ |
ヒダカイワザクラ |
遠くの岩陰に咲くエゾキスミレをズーム(おばさん撮影) |
「この尾根でこんなに綺麗に咲いているのを見たのは初めてよね」「そうだね、今まではもっと早い時期に来ていたからかもしれないよ」、私達はやっと周辺の花々の撮影を終えて一息をついた。「今日はもう大満足だわ」「うん、ここで下りて良いくらいだよ」。この日の私達の予定はアポイ岳の山頂まで登って、吉田岳への稜線を行く予定だった。しかしこの時はもうそんな予定は早々と変更だ。狙いの花々は十分に堪能出来たからである。 「とりあえず山頂には立ちましょう」と一気に急斜面を登り切った。10時30分、アポイ岳の山頂に立った。比較的静かな山頂でザックを下し~軽食を頬張りながら水分補給、素晴らしかった花模様の余韻に浸る。最近の私達はあまり長い間休憩はしない。15分ほど休憩して、ザックを担ぎあげすぐに下山を開始した。 「こんにちは」「暑いですね」「凄く咲いてますね~」「綺麗ですよね」、平日とは言え好天に恵まれた花の名山を登る人は多い。笑顔で挨拶を繰り返しながら下って行く。「暑い~~~」、花の撮影に夢中になっていてその言葉は少なかったのだが、さすがに下りの時には一気にその暑さを感じてしまう。5合目を通過して暑さから逃げるように樹林帯へ入って行く。静けさとひんやりした涼しさに包まれて、ほっと一息。汗を拭って水分補給を繰り返す。 13時5分、入山ポストに下山時刻を記入した。「最高だったわね」「うん、素晴らしかったなぁ」そう言いながら駐車場に向かった。アポイ岳の山麓でオオルリやミヤマカケスも撮影したおばさんは、山と花と野鳥撮影に大満足だったに違いない。 |
吉田岳とピンネシリ |
オオルリ(おばさん撮影) |
ミヤマカケス(おばさん撮影) |
コースタイム(含休憩&撮影時間) 入山ポスト 07:10 5合目 08:25-08:35 馬の背 09:15-09:25 山頂 10:30 山頂 10:45 馬の背 11:30 5合目 12:00 入山ポスト 13:05 |
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