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沢を登りつめる頃には青空が見事に広がっていた。ハイマツの奥に三ツ峰を見ながら進んで行くと羅臼平に飛び出す(頂上まで1.2km)、10時05分。山頂部の最後の登りに備えて一旦小休止、「暑いなぁ〜」「ほんと、一気に暑くなったわねぇ」汗を拭いながら水分補給をする〜

「あの時にはここにザックをデポして山頂までピストンしたのよね〜」「そうそう、羅臼岳までは快調だったけど〜三ツ峰への登りが予想外に堪えた記憶があるなぁ〜」、「展望は最高だったけど、サシルイ岳への登りもきつかったわね」遠くに霞む国後島をカメラにおさめながらも〜10年前の記憶が蘇る。

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沢地形を登りつめ

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左に三ツ峰を見ながら

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羅臼平へ

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   羅臼岳を見て

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遠く国後島
     
いよいよ羅臼岳に向かって最後の行程が始まった。ハイマツの中に刻まれたゆるやかな登山道、強い日差しが容赦無く照りつける。「暑い、暑いぞぅ〜」、少しだけハイマツのトンネルがあって日射しが途切れた、「涼しい〜〜〜」。

標高1420付近で〜先行する人達の様子がどうも騒がしい。登山道に立ち止まって山頂直下の台地上の左側を見ている。「もしかして〜」と目を凝らすと小さな塊が、、、動いている、「ヒグマだっ」。その周辺の登山道から距離にして100mくらいだろうか? 草でも食べているのかあまり動きが無い。「大丈夫かな〜」そのうちちょっと登山道側に移動する素振りを見せたものの、ヒグマは台地の上部へ消え去った。遠くからは小さな塊だったが、望遠レンズを通して見たクマはかなりの大きさだった。

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ハイマツに囲まれた登山道

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先行する人達と左上に小さな・・・

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左にヒグマが・・・

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草を食べているのだろうか(おばさん撮影)
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やがて台地の上部へ消え去った(おばさん撮影)

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「どうする?行くの?」「う〜〜ん、もう少し行ってみようか」、と進み始めた時に前方から下って来た男性に声をかけられた。今年2月のホロホロ山北西尾根で出会ったshibataさんとお連れの方だった。その後、札幌で写真展の時に出会って以来である。「どうも、しばらくです」「ここでお会いするとは思ってもいませんでしたが、二人とも首からカメラをぶら下げていたんで、遠くからでもすぐわかりましたよ」、「今年は知床山も登られているんですよね、すごいなぁ〜」。「それじゃ、またどこかで」と別れを告げる。shibataさんは岩清水の近くでヒグマを見かけたようで、ご自身のブログでもその写真を紹介されている。

程なく岩清水へ到着(頂上まで600m)、岸壁から滴り落ちる冷たい水で喉を潤し〜さらに先へと進んで行く。急な斜面を登って台地へ飛び出す。標高約1500m、山頂までの残り400mほどだ。

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shibataさんとの出会い

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岩清水

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岩清水上部の台地から山頂部を見る

高度が上がるにつれて、知床連山がその姿を現し始めた。三ツ峰、サシルイ岳、そして奥には硫黄山。ファインダーを覗いていると10年前の縦走山行が走馬灯のように駆け巡る。『サシルイ岳を過ぎてから急に雲が広がり始め、二ツ池でテントを張るとほどなく雨が降り出し、夜は雨と強風に見舞われ〜翌日は強風と視界不良の登山道を進み・・・しかし硫黄山から下り始めると忽然と青空が広がり、、、熊の掘り起しに怯えながらの下山・・・』、、、

そんな感涙に浸りながら歩きはじめようとした時だった。「お〜〜〜い、だめだ〜〜〜」そんな声が上部から聞こえて来た。「クマがいるよ〜〜〜」と指差している。どうやらヒグマは又戻って来て、しかも結構近いところに居るらしい。私は「了解」の合図をしてすぐに下山を開始した。これだけ多くの人達が登っている群集心理からすれば、ヒグマが去って行くのを待って登れないことも無い。しかしヒグマがすぐに去ってくれる保証も無い。展望はしっかりと確認出来たし、10年前の山行の思い出にも浸ることが出来た。ここはすんなり撤退するべきと判断した。もちろん、過去に道南の山で熊と至近距離で鉢合わせした時のトラウマもあったのかもしれないが・・・

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知床の山々が連なる

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右手前が三ツ峰、その奥にサシルイ岳 左奥が硫黄山

羅臼平に戻ると札幌から来られたと言う単独の男性が居た。ヒグマの話しをするとその方もここでやめると言う。腰を下しながら軽食を頬張っていると、熊鈴を鳴らしたり、大声をあげたりしながら羅臼岳山頂方面から大勢の人達が連なって下りて来る様子が見えた。「すごい事になってますね〜」、登って来られた二人連れの方もここでやめると言う。
そのうち二人の男性が山頂から下って来た。その方々の貴重な話しとして、熊は登山道を歩いていた事、空のペットボトルを握りつぶす音に反応して、ハイマツの中に消え去った事である。

何はともあれ〜ここは熊のテリトリー、居て当然だし、こっちが遠慮する配慮も必要と思いながら〜大沢を下って行く、、、途中で縦走装備の人達とすれ違う。「10年前には俺たちも・・・」そんな懐かしさを感じながら、「お気をつけて」と言葉をかけた。
山頂直下で撤退の羅臼岳ではあったが、悔しさは少しも無かった、、、世界遺産知床半島の羅臼岳に改めて敬意を表しつつ・・・無事に登山口に下りたった。

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大沢を下る

コースタイム(含休憩時間)
登山口 06:05  オホーツク展望台 06:45  弥三吉水 07:40-07:50  銀冷水 08:55  羅臼平 10:05-10:15  岩清水 10:40  岩清水上の台地(標高1500m) 10:52  羅臼平 11:15-11:45  銀冷水 12:15  弥三吉水 13:00  オホーツク展望台 13:35  登山口 14:05

2002年7月 「感動の知床縦走山行 羅臼岳〜硫黄山」 はこちらから

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